「実はマイナス思考のほうが成功しやすい?」という議論の限界

すでに説明したように、この話は「『スタンフォードの自分を変える教室』の著者で健康心理学者のKelly McGonigal(ケリー・マクゴニガル)氏がGoogle社で『意志力』をテーマに行った講演の一部」であり、講演全体の骨子は「健康な意志力を維持する5つの戦略」である。その5つの戦略を要約すると以下のようになる。

1………意志力の生理的な部分を鍛えること。これは瞑想、睡眠、運動、そしてエネルギーを保てるような食事をとることで達成できる。
2………意志力の挫折を経験したとしても自分を責めないこと。
3………「未来の自分」といい関係をもつこと、未来のことをもう少し現実味を持ってとらえる。
4………成功を想像するのは確かに気分が良いことだけれど失敗についても考えるということ。自分がどのようなプロセスを踏んで失敗するのかよく考えること。
5………誘惑に襲われたときはその衝動をやり過ごすこと。

「実はマイナス思考のほうが成功しやすい?」という議論を含めて上記の話に異論はない。………けれども、この議論全体には或る限界がある。その限界とは「健康な意志力を維持しようとする『個人の意志力』そのもの」に対する考察がなされていない点にある。………というのが私の考え方だ。
ほとんどの人は「健康な意志力を維持しようとする『意志力』」を自分一人では生み出す事も維持する事もできない。それは、その人を包んでいる社会や集団や組織から与えられるものなのだ。

社会や集団や組織は時として深い部分から優しく暖かく個人の心を包み込む事によって「健康な意志力を維持しようとする『個人の意志』を鼓舞する。しかし、別の場合には残酷極まりないやりかたで「健康な意志」を個人に強制する。この記事この記事のリンク先の動画で例示したように、………。

旧制高等専門学校を卒業して日本陸軍伍長として兵役を終えた私の父は極めて健康で優秀で運のよい「兵隊さん」だったし、戦後は極めて健康で優秀で運のよい建設会社の「社員(兵隊さん)」だった。
父は「極めて健康で強い意志力」の持ち主だった。………けれども、その意志力は常に日本という社会・国家および彼が属している企業から与えられ、また或る意味では強制された「兵隊さんの意志力」だったと私は感じている。その事を父は漠然と自覚していたに違いない。………だから、大学を出た!私が「兵隊さん」を越えた士官になる事を密かに強く深く望んでいたに違いない、とも思っている。

………ここで話は一気に跳ぶのだが、………
或る程度以上の規模の事業や社会運動を興して発展させる事は「兵隊さん」には不可能な事だ、と私は考えている。それは「兵隊さん」の意志力にとって荷の重すぎる負荷だと私は思う。FXや投資・投機で或る程度以上の資産を築いてそれを維持する事も、………。

父の密かなる遺志を継いで「兵隊さん」を越える人間になる事が私に与えられている使命であるような気がしている。………それが可能な事なのかどうかは分からないけれど、その方向に向かって心の奥底から湧き出してくる訳の分からない心の動きは死ぬまで私を捉えて離さないに違いない。それが、この歳になるまで父の月給や年金に依存して生活してきたニートの成れの果てが負うべき当然の罰であり義務なのだと思う。進めるとことろまで進む他はない。「七人の侍」の全巻を見終えた夜に死んでいった父の軍の「兵隊さん」として。

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