恋とはどんなものかしら – 我輩は日本人である

私の父は非常に女性にモテた男だった。

若い頃は昭和天皇の近衛騎兵だったそうだし

終戦当時は
旧陸軍軍属として満州からの引き揚げ集団を
引率する立場にいたし、

戦後は中堅土建会社の社員として
日本各地の復興に励むという、それなりのエリートだったし

社内報で連載小説を書くようなロマンチストでもあった。

そういう父の女性関係は単なる遊び
というのではなく本気の恋愛沙汰ばかりで、

北海道の日高地方に作業所長として
2年ほど出張して帰ってきた時は
現地から当市まで父を追って来た女性がいたし、

或る時などは水商売の女性が兄を伴って
夜中に我が家に押しかけてきて
玄関のガラス戸を叩き割り、
父は車で市内の諏訪公園にまで連れて行かれて
大立ち回りの末に身体に何箇所か傷を負いながら
辛うじて逃げ帰ってきた事もあった。

そのような父の恋愛沙汰に長い間苦しんでいた母は
私が高校3年生になった頃
或る事件を切っ掛けとして離婚を決意した。

1ヵ月ほど別居生活をした後
父は下請けの土建会社の社長に付き添われ
母に詫びを入れに我が家へ戻り、
何とか許してもらう事ができた。

その時の父の年齢は55歳前後。

どうしても社会生活に馴染めずに
後にニート生活を始める事になる私を許し、
むしろ歓迎しさえした父と母の特殊な関係が
生じた瞬間だった。

それ以降、父は母に全く頭が上がらなくなった。
ついでに私にも頭が上がらなくなってしまった。

妹が通常の医療では治らない難病に冒されている
という事情もあったりして、

我が家の将来
特に妹の結婚問題を考えて決定する責任は
徐々に大学卒の長男である私に
委ねられる事になっていく。

………というような次第で
定年を迎え65歳で年金生活に入る頃から
父はニートである私に年金収入の全てを託し、
家長としての役割りを一任し、
自分は完全に隠居生活に突入して
郷土史の研究に専念し始めたのだった。

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以上
長々と父の動向と
それに伴う我が家の歴史を申し述べたのは
私の父のように
一応それなりに真面目で誠実でありながら
助平な男が陥りがちな
恋愛心理の危険性についてのお話しがしたいからである。

私自身は父のようにモテた経験はないけれど、
根が真面目な助平である点では父親譲り、
……というより
この歳になっても
父以上の助平である事を認めない訳にはいかないので、
この際、
自分自身の為にも深く静かに考察を進行させてみよう
と思っているような次第である。

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以下次号………次の記事へと続く