…大切なのは社会だ


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大切なのは社会だ!
日本の先送り戦略について
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ドラッカーの「ネクストソサエティ」からの
引用(長文)

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日本の官僚の行動基準
を形成した三つの経験

日本のエリート指導層は、
アメリカの指導層まがいのものとは
行動様式が異なる。

アメリカで指導層の役を果たしているのは
まさにアメリカ的存在ともいうべき
政治任命の行政官と議会スタッフである。

これに対し、
日本の指導層は官僚機構である。

当然、それは官僚として行動する。
 

ドイツの偉大な社会学者
マックス・ウェーバーは、
一般的現象としての官僚の存在を明らか
にし、

その特質は経験を準則化して
自らの行動基準とすることにあるとした。
 

今日の日本の官僚の行動、
特に危機的な状況をめぐっての行動は、
三つの経験、うち二つは成功、一つは失敗
の経験を基準としている
 

………

最初の成功の経験

最初の成功は、
農村部の非生産的な人口という
戦後日本の最大の問題を、
何もしないことによって解決したことだった。

今日の日本の農業人口は、
アメリカとほぼ同じ2.3%である。
 

ところが
1950年には、アメリカでは20%、
日本では60%を占めていた。

特に
日本の農業の生産性はおそるべき低さだった。

日本の官僚は
問題解決への圧力に最後まで抵抗し成功した。
 

彼らといえども、
非生産的な膨大な農業人口が経済成長にとって
足枷であり、
生産しないことにまで補助金を払うことは、
ぎりぎりの生活をしている都市生活者に
犠牲を強いることになることは認めていた。

しかし、
離農を促したり米作からの転換を強いる
ならば、深刻な社会的混乱を招きかね
なかった。

そこで何もしないことだけが賢明な道で
あるとし、
事実、何もしなかった。
 

経済的には日本の農業政策は失敗だった。

今日、日本の農業は先進国のなかで
最低水準にある。

残った農民に膨大な補助金を注ぎ込み
ながら、
かつてない割合で食料を輸入している。

その輸入は
先進国のなかで最大である。
 

しかし、社会的には何もしない事が成功
だった。

日本はいかなる社会的混乱ももたらす事
なく、
いずれの先進国よりも多くの農業人口を
都市に吸収した。
 

………

二番目の成功の経験

もう一つの成功は、
これまた検討の末何もしなかった事による
ものだった。

彼らは小売業の問題にも取り組まなかった。
60年代の初めにいたってなお、
先進国のなかでもっとも非効率でコストの
高い時代遅れの流通システムをかかえていた。

それは
一九世紀よりも、むしろ十八世紀のものに
近かった。
高いマージンでようやく食べていける
家族経営の零細商店からなっていた。
 

経済界やエコノミストは、
流通業の効率化なくして日本経済の近代化
はないと主張した。

しかし
官僚は近代化を助けることを拒否した。

それどころか、
スーパーやディスカウントストアのような
近代流通業の発展を妨げる規制を
次々に設けた。
 

流通システムは経済的にはお荷物であって
も、社会的にはセーフティネットの役を
果たしている、
定年になったり辞めさせられても、
親戚の店で働くことができるとした。

当時の日本では、
失業保険や年金は充実していなかった。
 

40年後の今日、
流通業の問題は社会的にも経済的にも
ほぼ解消している。

家族経営の商店はいまも残っているが、
特に都心部では、
そのほとんどが小売りチェーンの
フランチャイズ店になっている。

昔のような
暗い店は姿を消した。

一元管理の明るく、きれいな店になって
いる。

世界でもっとも効率的な流通システム
といってよい。
しかもかなりの利益を上げている。
 

………

失敗の体験

官僚の行動を規定することになった
第三の経験は、
前述の二つとは異なり、失敗の経験だった。

その失敗の経験も、
先送り戦略の正しさを教えた。

そもそも失敗したことが、先送りの知恵を
忘れた結果だった。
 

日本は1980年代において、
他の国ならば不況とはみなされないような
程度の景気と雇用の減速を経験した。

そこへ変動相場制移行によるドルの下落が
重なり、
輸出依存産業がパニックに陥った。
 

官僚は圧力に抗しきれず、
欧米流の行動をとった。

景気回復のために予算を投入した。

しかし結果は惨憺たるものだった。
先進国では最大規模の財政赤字を出した。

株式市場は暴騰し株価収益率は五〇倍以上
になった。

都市部の地価はさらに上昇した。
借り手不足の銀行は憑かれたょうに投機家
に融資した。
 

もちろんバプルははじけた。

こうして金融危機が始まった。

銀行、保険会社、その他の金融機関が、
株と土地の評価損と不良債権を
かかえ込んだ。
 

………中略………

 

………

大切なのは社会だ

日本の官僚がいかに考え、いかに働き、
いかに行動するかを理解するうえで
もっとも重要なことは、
日本にとっての優先順位を知る事である。

アメリカでは、
安全保障が脅かされている時を除いて、
もっとも重要なものは経済であるとされる。

しかし日本にとっては、
もっとも重要なものは社会である。

しかも、ここでも日本が一般的であって、
アメリカが例外である。

アメリカ以外の先進国では、
政治にとって経済は唯一の関心事ではないし、
もちろん最大の関心事でもない。
経済は制約条件にすぎない。
社会こそもっとも重要である。
 

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